遺伝子検査キットが身近な存在になった
歩行速度が寿命に影響を与える
イギリス、レスターの病院(University Hospitals of Leicester NHS Trust)からの報告です。痩せ型から肥満型まで様々な体型の474,919人を追跡調査したところ、歩行スピードの遅い人の寿命は速い人よりも短かった。中でも、痩せ型かつ歩行スピードの遅い人々は最も平均寿命が短かった(男性;64.8 女性72.4)。
https://www.leicestershospitals.nhs.uk/aboutus/our-news/press-release-centre/?entryid8=67262
報告によると被験者の体重や肥満の有無よりも、歩行スピードの方が寿命に与える影響は大きいと見ており、将来的にはBMI(Body Mass Index)よりもフィットネスの有無の方が健康パラメータとなるのではないかと考えているようです。
今回はイギリスでの結果ですが、歩行スピードと健康寿命の因果関係は様々な国の機関から報告されてきています。この手の疫学調査は数年前から、複数報告されていますが、どの試験結果にも共通しているのは「歩行スピードは速い方が寿命が長い」という結論です。「速い」と言っても時速5kmくらいのことを指しており、めちゃめちゃ早歩きというわけではありません。一方、「遅い」場合は時速2-3km程度のようです。
では、速く歩くことがなぜ健康に良いかというと、諸説あるようです。
- ある程度の歩行速度は心臓へ適度な負担をかけ、心臓の良いトレーニングとなっている(速く歩く→健康になる、という考え。)
- 体の筋肉量や身体能力が高ければ、自然と速く歩くようになっている。筋肉量が多ければ寝たきりなどになりにくく、結果として長い寿命となる。(身体能力が高い→速く歩ける、という考え。)
超長寿社会を迎えるにあたって、健康寿命をどれだけ長くできるかはとても重要です。
日々の生活にフィットネスを取り入れてみると長生きしやすくなるかもしれません。
3349万円の薬
遺伝子は必ずしも遺伝しないという衝撃の事実
人の運命は遺伝子だけでは説明できない
これまでヒトの遺伝子は親から子へそっくりそのまま受け継がれ、生まれ持った遺伝情報に抗うことはできないと考えられてきましたが、最新の研究によると実はそうでもなかったようです。遺伝情報が全く同一であるはずの一卵性双生児でさえも、生まれてからの環境や本人の努力次第で、お互い異なる体質へ変化していくとのこと。
DNAスイッチこそが、遺伝情報のオン・オフを司る
NHKスペシャル シリーズ人体Ⅱ「遺伝子」第2集 "DNAスイッチ"が運命を変える
放送中に再三登場する”DNAスイッチ”というのがカラクリで、遺伝情報の発現・非発現をコントロールしているそうです。”DNAスイッチ”には様々なタイプのスイッチがあり、記憶力を良くするスイッチや音楽的なセンスを上げるスイッチなどもあるようです。つまり、後天的な努力によって、そのスイッチのオン・オフが可能な体質になれるということでした。さらにはスイッチ調節機能は、世代を超えて遺伝する可能性があるようです。例えば、メタボ体質だった男性が、子作りの期間だけ減量すると、その期間中の精子にはメタボ化する情報が含まれない(メタボに関わる遺伝子がオフになっている)そうな。
努力次第でDNAもコントロールできる!
放送中の山中教授の「教科書を書き換えなくてはいけない」という発言が、この事実のインパクトの大きさを物語っていました。
これが本当だとすると、運動がすごく苦手な人が一生懸命トレーニングして走ることが得意になったら、その子供は走るのが得意な体質として生まれてくるかもしれませんね。つまり、遺伝子配列はそのまま遺伝しているけれど、発現する/しない遺伝子を決めるスイッチは後天的に獲得できる、ということです。
確かに、生物の進化の歴史を考えると、徐々に体型や能力を変化させてきたわけですし、遺伝情報が変わるというよりも、遺伝情報の発現・非発現を調節することで環境に適応し続けた、ということなのだと思います。
アンモニアの合成効率が大幅にアップ
アンモニア供給は現代生活に不可欠
アンモニアは作物を育てる際の肥料の原料や、様々な化学薬品の原料となるため、私たちの生活に欠かせない物質です。これまで、アンモニアは、工業的にはハーバーボッシュ法とよばれる合成方法でつくられています。この合成方法では、窒素と水素を高温、高圧条件で反応させる必要がありますが、私たちの生活を十分に賄うだけのアンモニアをつくろうとすると、なんと世界中の消費エネルギーの約1%を毎年アンモニア合成に利用していたそうです!!
水と窒素からアンモニアが簡単につくれる
そんな中、よりエネルギー効率の高いアンモニア合成法がNature誌に報告されました。東京大学の西林教授たちのグループによる報告です*1
この新合成法では、常温、常圧で水と窒素をある触媒とともに混ぜるだけでアンモニアが簡単につくれるようです。
ハーバーボッシュ法
H2 + N2 (+鉄触媒)→ NH3 高温(400-600度)高圧(200-1000atm)
新合成法
H2O + N2 (+モリブデン触媒)→NH3 常温、常圧
新しい触媒(モリブデン)を発見したところがブレイクスルーですね。水H2Oや窒素分子N2といったそこら中にありふれた原料から合成できる点も魅力的です。世界のエネルギー消費を抑えることも可能になるかもしれません。
一方、今回の報告はあくまで実験室スケールでの成功例ですので、今後工場スケールまで対応できるかが注目されるところです。こういった報告によって、アンモニア合成研究の分野も一層盛り上がると思います。
既存薬の転用が盛り上がりそう
はじめまして。このブログはライフサイエンスに関わる雑記をお届けしようと思います。少しでも楽しんでもらえるとありがたいです。
早速、最近気になった記事を紹介です。
https://www.medicalnewstoday.com/articles/325084.php
ED治療薬が心不全治療薬に!?
バイアグラは言わずと知れた勃起不全(ED; erectile dysfunction)治療薬です。このED治療薬が心不全の治療に利用できるのではないかという記事で、論文発表もされているそうです
記事の内容を かなり簡単に要約しますと、こんな感じです。
マンチェスター大学の研究者らは、従来ED治療薬として利用されてきたバイアグラやシアリスなどの薬が心不全の治療薬になる可能性を示した。
心不全を引き起こした羊に、ヒトがED治療薬として使用する用量と同じだけのシアリスを投与したところ、3週間後には心臓の収縮機能の改善が確認された。
今回の実験はあくまで羊を用いた実験結果ですが、著者たちはヒトでも同様の作用が期待されると考えています。すぐさまヒトに対して用いるというわけにはいかず、医師と十分に相談が必要であるとしています。(その前に臨床試験が必要な気がしますが)
ヒトの心臓に近い、羊の心臓を使って研究をしたようですが、ブタの臓器はヒトに近いと聞いたことがありますが、心臓は羊の方が近いのかな??
ED治療薬として用いられてきた薬に心臓のポンプ機能の改善効果がありそう、という内容ですが、バイアグラはもともとは心不全治療薬として開発されていた経緯があるので、当初の適応疾患にもどってきた感じです。
AIの導入やiPS細胞と絡むことでドラッグリポジショニングはますます活発化しそう
適応疾患をかえて薬を開発することを”ドラッグリポジショニング(drug repositioning)”と呼んでいますが、最近よく耳にする気がします。こういったドラッグリポジショニングで新しい薬を見つけることのメリットはおおまかに言って2点、「研究開発費を抑えることができる」「上市までのスピードが早い」という点だと思います。基本的に、他の疾患治療を目的で研究開発された薬を転用するわけですが、安全性という意味で臨床試験をパスしている薬が多いので、ある程度の投与量までならヒトに投与しても大丈夫というデータがある薬です。
すでに市販されている薬の隠れた効能を発見しようとAI導入を検討していたり1)、iPS細胞を使った化合物探索2)にも利用されているようなので、これから先ドラッグリポジショニンングがますます活発になっていく気がしますね。
何より、新しい薬ができるだけ安く・早く届けて貰えるようになったら嬉しいです。
1) 隠れた薬効 AIが発見、開発費・医療費減に期待https://www.nikkei.com/article/DGXMZO43945490Z10C19A4TJM000/
2)パーキンソン病の薬、ALSに効果か iPS創薬の治験https://www.asahi.com/articles/ASLCY6JMPLCYULBJ01B.html?ref=newspicks