ライフサイエンス四方山話

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医薬品の化学合成ルート:アログリプチン

医薬品の化学合成経路について調べてみましたので、ご紹介します。

今回登場する医薬品は、ネシーナの名前で知られている、2型糖尿病治療薬です。ネシーナは商品名ですが、有効成分の名前はアログリプチン(Alogliptin)です。DPP4と呼ばれる酵素の阻害薬で、血糖降下作用があるため、食後血糖値の上昇を抑える薬です。

 

アログリプチン(Alogliptin)の化学合成ルートについてお話します。合成方法に関しては、公開されている特許を参考にしました。

https://patentscope2.wipo.int/search/en/detail.jsf?docId=WO2007033266&redirectedID=true

 

合計で3工程の化学反応を経て、アログリプチンが合成されており、医薬品の化学合成経路としてはかなり短い部類ではないかと思います。順を追って、各工程を見ていきましょう。

Step 1

6-クロロピリミジン-2,4(1H,3H)-ジオン(化合物1)とシアノベンジルブロミド(化合物2)とを反応させて、化合物1の1位へベンジル基を選択的に導入しています。化合物1にはベンジルブロミドと反応しそうなアミドNHとイミドNHが共存しているので、選択性が上手くでるものなのかと思いましたが、案の定、収率が54%くらいですので、副生成物もそれなりにできていそうです。

Step 2

 

化合物3のアミドNHのメチル化反応です。教科書通りの反応ですね。強いて挙げれば、反応溶媒はDMFだけでもよかったのでは?とも思いますが、THFを入れるのがコツなのでしょうか?反応の邪魔にはならないと思いますが。

Step 3

化合物4と3-アミノピペリジン2塩酸塩(化合物5)を反応させています。化合物4のクロロ基(Cl)を脱離基として利用し、化合物5のアミノ基と反応させることで、化合物5を化合物4の分子骨格内に導入しています。化合物5には2つのアミノ基(NH)が存在するため、選択性よくアミノ基が反応するのかと思いましたが、2級のアミノ基が主に反応するようですね。(特許には収率の記載はなかったのですが、得られた収量を基に見積もると大体60%くらいの収率のようです。)

 

という合成ルートで、アログリプチンは世に生まれたようです。かなりシンプルで綺麗な合成方法と思います。収率もそこそこありますので、きっと実験者も楽しかったのではないでしょうか。