【読書感想文】トロント最高の医師が教える 世界最新の太らないカラダ
今回は、最近読んだ本について、内容を簡単に紹介しつつ感想を書いてみたいと思います。いわゆるダイエット法についての本なのですが、書店でたまたま目についたのをきっかけに読み始めました。
著者と彼の主張
トロント大学医学部を卒業し、2型糖尿病の専門医でもあるジェイソン・ファン医師による著書です。糖尿病の専門家らしく、インスリンに焦点をあてた「ホルモン理論」によるダイエット方法を提唱しています。
著者の主張をシンプルにまとめると、下記となります。
- 体内のインスリン濃度が高いと肥満になりやすい。(グルコースからグリコーゲンへの合成が促進され、余剰グリコーゲンが脂肪として蓄積されやすいため。)
- 体内のインスリン濃度は「高度に精製された炭水化物」を摂取することで、急激に上昇する。
- 体内のインスリン濃度を下げるためには、「高度に精製された炭水化物」の摂取を避け、さらには1日程度の断食期間を定期的に設定するのがよい。
ここでいう、「高度に精製された炭水化物」というのは、白米や小麦のことで、私たちがまさに主食として利用しているものですね。生まれながらにインスリンを自力で産生できない1型糖尿病の患者さんが肥満とは無縁であることも指摘しています。食事によるカロリー摂取ではなく、インスリンのようなホルモンに注目して議論を展開していくのが非常に新鮮でした。著者によれば、カロリー摂取が多くても、インスリン産生を刺激しなければ、肥満には繋がらないという考えのようです。
読後の感想
Amazonレビューも見てみましたが、賛否両論でした。私にとっては、ホルモンの観点から減量法を考察した本はあまり読んだことがなかったので、なかなか刺激的でおもしろく読めました。巷には「糖質制限ダイエット」や「低炭水化物ダイエット」などがありますが、どちらもインスリン産生を抑えることにつながっていて、減量方法として一理あるんじゃないかなと思います。ただ、主張がシンプルなわりには、本のボリュームが多すぎる気もします。主張を裏付ける論文数もかなり多いのですが、同じことを何度も繰り返して説明している感が強いです。巻末には間欠的断食を含む、オススメの食事法などが載っていますので、試してみて体の変化を確認してみるのもよいかもしれません。
認知症リスクを減らすために
認知症は避けては通れない病
日本を先頭に近い将来、長寿大国が続々と現れてくるでしょう。その際、大きな社会問題になっているが、認知症患者の増加です。年齢を重ねるにつれて、私たちの誰もが罹患するリスクのある病です。
本日の記事は、認知症の前段階と考えられている軽度認知障害(Mild Cognitive Impairment, MCI)の発症を抑えるための有効法についてです。
そもそも、軽度認知障害とはざっくりと説明するこういう状態です。
軽度認知障害リスクを減らす活動とは
このMCIの発症と生活習慣との相関を調べた論文が公表されました。
アメリカの大手総合病院Mayo clinicで、70代後半の非認知症2000人に対して、彼らの生活習慣に関する大規模なアンケート調査を実施しました。その後、5年間の追跡調査を経て、532人がMCIを発症しました。
アンケート結果から、MCIの発症リスクを軽減させる方法として
- コンピューターを使用すること
- 本を読むこと
- TVゲームをすること
- 社会活動をすること
- 手工芸を嗜むこと
などが有効であることがわかりました。これらのうち、1つより2つ、2つより3つをこなす方がより効果的なようです。
これらの項目に共通しているのは、脳に刺激を与える活動が良いということで、コンピューターを中年以降で利用することは、特にリスク低減につながるとのことです。TVゲームも有効というのは意外ですが、確かに頭使わないとできないです。筋肉も脳もトレーニングしないとどんどん衰えていきますね。
脳に電極を埋め込んでQOLは向上するのか?
人間 バージョン2.0
「念じるだけでIT機器を操作できたら」なんてたまに考えます。そんなことができる超人間が現実のものとなります。イーロン・マスク博士により設立されたベンチャー企業「Neuralink」では、人間の脳に電極デバイスを埋め込み、認知症のような脳疾患の改善や、デジタルデバイスの操作を可能としようとしています。
2020年からアメリカで臨床実験を開始する予定ですが、埋め込む電極デバイスは髪の毛程度の細さの電極で、人の手ではなく、専用ロボットを使った手術を想定しています。これまでにラットやサルでの実験では約80%の成功率でデバイスの埋め込みに成功していて、将来はレーシック並みのお手軽感でデバイス埋め込み手術が受けられるようにしたいとか。
AIの脅威に対抗するため
短期的な目標は脳疾患の改善を謳っています。長期的には、将来、急速に進化するAIに人間が対抗できなくなることを見越して、人間自身もバージョンアップする必要性があるとの認識から、AIの進化に対抗する手段と一つとして捉えられそうです。
例えば、念じるだけでスマホ、PCの操作が可能になったり、義手義足といった四肢の操作も可能になる。とかできることが色々ありそうです。
アメリカでの臨床試験が成功すれば、世界的にも流れは広まるような気がします。日本でも話題となって流行り始めるかもしれませんね。
将来、手術を受けるかどうかはその時の対応デバイス次第かと思います。QOLの向上にどれだけ貢献しそうか。いずれにしても今後の成り行きがとても気になります。
薬用植物ドクダミに含まれている有機化合物
ドクダミの花がそこら中で咲いています。道端やちょっとした日陰で白くて綺麗な姿を最近よく見かけるようになりました。ドクダミは「毒溜み」とも表記されるように、代表的な薬用植物です。「十薬」という生薬名でも知られています。某お茶の成分としても謳われていたり、ドクダミ茶などとしても有名ですね。
そんなドクダミの薬効を示す有効成分のうち、有機化合物2つを紹介。
- デカノイルアセトアルデヒド
- クエルシトリン
1.デカノイルアセトアルデヒド
生のドクダミの独特の匂いの原因です。強力な殺菌作用が知られており、乾燥させることで、酸化反応を経て別の物質へ変わり匂いはなくなります。
2.クエルシトリン
フラボノイドと呼ばれる物質の一種で、抗炎症作用などが知られています。
いずれの生(採りたて)のドクダミに含まれている成分であり、こういった有機化合物は空気に触れると不安定な場合が多いので、乾燥させたり熱をかけたりすると分解したり、変化したりします。ドクダミ茶などに含まれている成分はカリウムなどミネラル成分が多いんでしょうね。
医薬品の化学合成ルート:アログリプチン
医薬品の化学合成経路について調べてみましたので、ご紹介します。
今回登場する医薬品は、ネシーナの名前で知られている、2型糖尿病治療薬です。ネシーナは商品名ですが、有効成分の名前はアログリプチン(Alogliptin)です。DPP4と呼ばれる酵素の阻害薬で、血糖降下作用があるため、食後血糖値の上昇を抑える薬です。
アログリプチン(Alogliptin)の化学合成ルートについてお話します。合成方法に関しては、公開されている特許を参考にしました。
https://patentscope2.wipo.int/search/en/detail.jsf?docId=WO2007033266&redirectedID=true
合計で3工程の化学反応を経て、アログリプチンが合成されており、医薬品の化学合成経路としてはかなり短い部類ではないかと思います。順を追って、各工程を見ていきましょう。
Step 1
6-クロロピリミジン-2,4(1H,3H)-ジオン(化合物1)とシアノベンジルブロミド(化合物2)とを反応させて、化合物1の1位へベンジル基を選択的に導入しています。化合物1にはベンジルブロミドと反応しそうなアミドNHとイミドNHが共存しているので、選択性が上手くでるものなのかと思いましたが、案の定、収率が54%くらいですので、副生成物もそれなりにできていそうです。
Step 2
化合物3のアミドNHのメチル化反応です。教科書通りの反応ですね。強いて挙げれば、反応溶媒はDMFだけでもよかったのでは?とも思いますが、THFを入れるのがコツなのでしょうか?反応の邪魔にはならないと思いますが。
Step 3
化合物4と3-アミノピペリジン2塩酸塩(化合物5)を反応させています。化合物4のクロロ基(Cl)を脱離基として利用し、化合物5のアミノ基と反応させることで、化合物5を化合物4の分子骨格内に導入しています。化合物5には2つのアミノ基(NH)が存在するため、選択性よくアミノ基が反応するのかと思いましたが、2級のアミノ基が主に反応するようですね。(特許には収率の記載はなかったのですが、得られた収量を基に見積もると大体60%くらいの収率のようです。)
という合成ルートで、アログリプチンは世に生まれたようです。かなりシンプルで綺麗な合成方法と思います。収率もそこそこありますので、きっと実験者も楽しかったのではないでしょうか。
AIに生活指導される時代がきますね
Tessと呼ばれるAIチャットボットがテキストメッセージのやり取りを通して肥満症の子供たちの生活をサポートする、という報告です。
AI coach feasible and useful for behavioral counseling of teens in weight-loss program
- 来院する必要がない。
- 人件費を支払う必要がない。